初心に返って

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 第46回例会報告で、TIさんがMMさんと小生に上達の跡があるとして『単身赴任は笛の上達の鍵になるのかも知れない』と書いてくれました。うれしいことに進歩があったとすれば、小生に関しては、定年退職により単身赴任が解消し、この際初心に返って筒井さんその他の方々のようないい音をめざして出来るだけ毎日吹こう、音の練習もしようと心を入れかえたせいだと思います。
 それだけならば別にこの紙面を使う程のことではないのですが、毎日の練習の最初にトレバー・ワイのフルート教本第1巻「音作り」(音楽之友社刊)の低音域の練習を始めてみて、小生がいままで目指してきてさっぱりうまくいかなかった、豊かな低音を出す手がかりがつかめたような気がして、あえて書かせて頂くことにしました。
 いろいろな教則本では、音をよくするためには日課練習としてのロングトーンを勧め、フルートクラブ版アルテでは最も美しい音が出しやすい中音域のHから、半音ずつ下げる形のロングトーン練習によって音をきれいにするとともに、全音域にわたり音質が急変しないようにする練習を取り入れています。
 これはモイーズの「ソノリテ」を嚆矢とする練習方法だと思いますが、これに準じた方法でE.C.ムーアの教則本「フルートを吹く人のために」(パイパーズ刊)にある、やはり中音のHから半音ずつ下げていく方法があります。ここでの違いは、音を下げていくに従ってディミヌエンドするよう指示があることで、ムーアはこれにより豊かな低音が出るようになる、と言っており、小生の経験でも確かに低音が出しやすくなりますが、力強い低音を出すまでには至りませんでした。
 これに対し、トレバー・ワイの教本の特徴は、(1) 低音域のHから始める、(2) 音を下げて行くに従い、クレッシェンドする、というところにあります。
(1) については、基音を大事にする事にあると思われ、また、この音も比較的容易にいい音が出せると思います。
ユニークなのは(2) で、ワイは何も説明を書いていませんが、自分なりの解釈で次のように考えるようになりました。
 いい音を出す鍵はアンブシュアにあるといわれます。しかしその前提として、息が正しく歌口に当たっている必要があります。息が正しく歌口に当たるとは何か?よく言われるのは歌口のエッジの角度の2等分線上に息の流れがあることです。これを確かめるのは困難ですが、結果として、強く息を吹き込んでも、オーバートーンが出ない状態ではないか?と思うのです。
 ワイの方法は、このオーバートーンが出ない状態を確実に身につけるために、低音になるに従ってクレッシェンドするように指示をしているのではないかと思うのです。
 実際に試してみて、強く息を吹き込んでも音がひっくり返らない下限の音域が少しずつ広がってきました。現在はFまで来ましたが、面白いことに、EからDはまだうまくいきませんが、最低音域のCisとCは強く息を吹き込んでもひっくり返らないのです。これはなぜなのか、全くわかりません。どなたか同じような経験をお持ちでしたら教えて頂きたいところです。
 もう一つ面白いことに気がつきました。このようなロングトーンの練習はビブラート無しでやりますが、時々低音で音がひっくり返る時にのどで声を出していることに気付きます。この時にビブラートをつけるとひっくり返らなくなるのです。ノン・ビブラートではうっかりすると声帯を塞いで圧力をコントロールしてしまい、そのために歌口に当たる息の角度がずれるが、ビブラートをかけるとのど全体で圧力をコントロールするため、声帯を塞ぐことがなくなるからではないかと思っています。

(続く)  

(初出:ナナカマド短信18号/2005年7月3日)


 前回最後にうっかり(続く)としたのは、声帯を塞いだ事で歌口に当たる息の角度がずれる、とした事について、もう少し詳しく小生の感じている事を説明したいと思ったからです。
 たまたま手元にあった同朋舎刊「分解博物館21」の人体の項でのどの付近の解剖図を見ると、気管の入り口付近に声帯があり、声を出す時、声帯が縦にスリット状になって狭まる事が判ります。
 音を出す時、あくびをする時のような感じでのどを広げるよう教えられますが、この時声帯は十分に開いていて、これにより肺からの息の通路断面積が滑らかにつながり、息は乱れることなく一様に通路断面に広がって(断面内で一様な速度分布で)最後に広く保たれた口蓋内の空間に至り、ここから上下の唇で形成される最後のスリット状通路から息が噴出されて、歌口に至るいわゆるエアリードを構成する事になります。
 低音の発音時に声が出る状態は、この息の通路の中に急に極めて狭い断面積部分が出現し、ここから息が通路内にジェット状に噴出している事になります。これは息の通路断面内に速度分布の不均一を生み、さらにこの後の流れが左右いずれかの壁に沿う事になり(コアンダ効果)、結果としてエアリード内の速度不均一或いはエアリードの方向を微妙に変えてしまうのではないか、というのが前回の小生の主張です。
 ここでもう一つ説明を要するのが、ビブラートをかける時、のど全体で圧力をコントロールする、という部分です。
 ビブラートはどこでかけるのか?横隔膜か、のどか?フルートクラブの昔の会報でも、これについての議論があったことをかすかに憶えています。
 フルートクラブ刊比田井洵編「アルテフルート教本」での比田井さんのビブラート訓練法は、タンギングを使わずに横隔膜でハッ、ハッと息を使って音を出し、これを連続してビブラートとするというもので、小生もこれでビブラートを習得しました。しかしその後何十年もたって気がついてみると、ほとんどのどでビブラートをかけています。
 音楽之友社刊A.S.フロイド著「フルート奏法 成功への鍵」92頁にはゴールウェイものどでビブラートをかけていることが記されています。さらにそれは声門(声帯)の動きによるとされています。そうだとすると、小生の実感としての、ビブラートをかけると低音で音がひっくり返らなくなる理由は、ビブラートをかけたことで声帯を開いた状態からわずかに狭めるとしても、声を発する時ほどスリット状にすることなく、滑らかな息の流れを確保できるためではないかと考えているわけです。 (完)

(初出:ナナカマド短信19号/2005年10月2日)

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